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「あ、」

 また巨峰だ。がさがさ、と飴を掴んだ右手を見て湊は思った。さっきも巨峰だった。こういうとき、ううん、とおもう。嫌いなわけではなくて、なんとなく違う味を楽しみたい。いま、口ん中ブドウ味だし。

「ようー飴いるー?」
「いらねえ」

 隣に声をかけると、顔もあげずにいわれた。素っ気ない、返事早すぎだし。なんか切ないなあ。真面目にカリカリとシャーペンを滑らせる陽を見て、集中してるなーと思った。うん、俺も勉強しねーとな。とか思いつつ、もっかいおみくじにチャレンジ。…あっれー。

「ちょっと下行ってくるわー」
「…」

 適当に告げて、席をたつ。おみくじはまた末吉だった。口の中は変わらずブドウ。湊は先ほどの飴を持ち、次は左手で挑戦する。右手には紫の飴玉、左手は…お楽しみという状態で、開きっぱなしの扉を抜け、階段を降りた。まだいるかなー。


「おっいた。紅ちゃーん」

 廊下を走って近付くと、走っちゃ駄目ですよ、といわれた。んー、と笑ってお茶を濁しながら両手を突きだす。

「どっちの手ーにあーるーかっ」
「え?」

 まぁ、両方にあるんだけどーとか思いつつ、選択を待つ。んー…、と悩んだ末選んだのは、右手だった。あ、今更だけど俺の手で溶けてたりしねーよな…と少し不安になったが、恐らく大丈夫だろうとパッと彼女の前で右手を開いた。

「あったり!飴どーぞ」
「わ、ありがとうございます」

 にこり、と笑いかけられる。うん、かわいいなー。陽ももうちょい愛想というものがあればな…とおもう。こちらも笑い返して、そういえば、と彼女に尋ねた。

「芳ちゃんは?」
「今日は日直みたいで、遅れるみたいです。でも、もうすぐ来ると思いますよ」
「そっかー」

 部室で待ちますか?と聞かれたけれど、ふるふると首を振る。そんな大した用じゃねえしなぁ。

「紅ちゃんって何味がすき?」
「えっと、巨峰、すきですよ。あと、桃もすきです」
「俺もすきだわー」

 先程は、ブドウばっかだーなんて思っていたけれど。桃食べたいな、なんて思いながら、左手をポケットにいれた。これは、何味だろ。そうして、暫く二人で話していると、彼がきた。

「何してるんですか先輩?」
「おつかれー」
「芳くん、お疲れ様」

 少し緊張して、早歩きな様子だった彼は、こちらへ来るとすっと肩を降ろした。湊はポケットから飴を取りだし、彼に渡す。

「何味だと思う?」
「何味があるんですか?」
「ひみつー」
「ブドウで」

 ちゃんと聞いたわりには早い決断だ。大したことではないけれど、彼は何かに気づいてそう言ったのかもしれない。若しくは、ただ単に運任せ。

 手を開けば、紫色。なんてことだ。今日はブドウの日なのか。なんだか笑ってしまった。そして彼は、すんなり当てたそれを口にいれた。

「ブドウ、すきですよ。ありがとうございます」
「おー…」

 ならばそれも、当たりだなと思った。




オチない

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