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月初めにリセットです
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『今日、満月なんだってー』

 何処からか聞こえた声につられて夜空を見上げた。すると、ちらちらと光る星たちに囲まれたまるい月が浮かんでいた。幻想的な光が、暗闇を穏やかに照らす。
「わあー…綺麗だね。」
「満月の日は良くないことが起こるって聞いたことある?」
「交通事故だっけ。」
「そうそう、何だか不思議だよねー。月に見とれて事故ったとかかな?」
「それはないだろー。」
 通行人の会話を耳に入れつつ、寒さから逃げるように只管家路を急いだ。

「…ただいま」
「おかえりー寒かっただろー」
 エプロン姿の父がひょっこり顔を出す。軽く返事をして、靴を脱いだ。
「陽くーん。今日は牛丼だよー」
父の声をぼんやりと聞きながら、自室に入る。目を窓へ向けるが、月は見えない。
「陽くん?」
「行く」
なかなか来ないことに焦れたのか、再び陽を呼ぶ声に、短くそう言った。

「今日は満月らしいね~」
「…」
「見た?」
「少し」
「なんかさ、不思議な感じだよね」
 先程と同じようなことを聞きながら、夕飯を口に運ぶ。満月の話題はまだ続くのかと思いきや、次には舌を噛みきるという何処から引っ張り出してきたのかよくわからない話へと変わっていた。

 夕飯を終えて、まだ話し足りなそうな父親を置いて自室へと戻ると、ベッドに腰掛ける。向日葵が下を向いて、太陽が沈む。満月が後ろから追いかけて、ぼんやりとした光を残しながら雲に隠れる。
 もうすぐ秋桜が咲く。十五夜というものも、そろそろだろうか。詳しくは知らないが、一月に満月の日が二度あるのは、一日と三十一日のみだという。へえ、と適当に相槌を打ちながら、少しだけ眉間に皺が寄ったその時、考えていたことは何だったろうか。
 ばたり、と後ろに沈む。疲労を感じた。暗闇の中、月の光が差し込むだなんて、馬鹿げた話だと思ったものだが、窓辺は少し明るい。重たい体を起こし、軽くカーテンを開けた。
 満月が見える。昔、月は自分を追いかけてくるように感じていた。何度振り向いてもそこにいる、白い光。太陽とは異なる、薄暗い寒さを感じた。乱暴にカーテンを閉めて、振り向く。そこに月は居なかった。

 ガシガシと髪を拭きながら自室へ戻ると、薄暗かった。電気を付けて、椅子に座る。ノートを開こうとして、やめた。振り向く、夜がちらつく。立ち上がり布で隠す。ベッドに潜り込み、一人だけの暗闇を作った。
 ぐるぐるとまわる。満月、事故、「不思議だね。」、綺麗、あれの何処が、綺麗なのだろう。近付いてくる、眠れない、いま何分経っただろう。何時なんだ。朝は、まただろうか。
 まるで永遠に続くような気がして、けれどそれを打ち切るため、顔を出すことには恐怖を感じる。暗闇に慣れた目を、閉じた。


 ピチピチという鳥の声、ジリジリと響く蝉の音に目を開ける。眠っていたような、そうでないような、不思議な感覚。顔を出して、朝を確認した。心地よくない汗に顔をしかめ、立ち上がった。
 カーテンを開ける。眩しい光に目を細める。安心感、視界に銀がちらついた。ジリジリ、カラン。月はもう、居なかった。


おわり。

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