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「「先輩何か悩み事ですか!?」」

 部室にちらほらと部員が集まり始めたころ、窓際でふう、と溜め息を吐いた湊に加藤と尾藤が詰め寄った。いきなりの奇襲に驚いた湊は、一瞬躊躇ったあと軽い調子で笑った。
「いいやー何もねえよ。心配かけて悪いな」
「そんなことないです!何かあったらいつでも私に言ってください!」
「いやこいつより先に俺に!」
「黙れチビ!」
「お前が黙れや!」
 わいわい、がやがやと騒ぎはじめる二人に自然と笑みがこぼれる。喧嘩するほど仲が良いというやつだろう。集まり始めたと言っても、部員数は部として認可されるギリギリ七人。合唱部としては何とも寂しいものだ。しかし、新しく入った一年生が部室をとても賑やかにしてくれる。以前聞いた話では、幼馴染みらしく、この通りな関係を続けてきたらしい。二人は互いに十分言い合うと、次の矛先をもう一人の幼馴染みに向けた。
「はー。あんたはさっきから何やってんのよ」
「…」
「無視か!」
「…うるさいよ」
「お前が静かすぎる気もするけどな」
 加藤たちの後ろで真面目に楽譜を読んでいた無藤は、ピアノの前に座っていた。次に歌う合唱曲のものだろう。無藤は伴奏を担当している。合唱部に入ったはいいものの、なかなか歌う様子がなかったため(これには、入部は何かの間違いかと疑った)、ピアノをひかせてみたのだ。どうやら此方には興味が惹かれたようで、拙いながらも一応ピアノ経験者の加藤に教えてもらいつつひいている。まだまだ片手ずつが精一杯のようだが、熱心に取り組む姿勢は、懸命さが伝わってくる。
「楽譜見てたのか、偉いな」
「まだ、上手くひけないんで…」
「ひけてるって、郁。今日もイケメンだなー」
 つい髪をくしゃくしゃにしてしまう。そして、ゆっくり撫で付けて後ろを振り向くと、子犬たちがキッとこちらを睨み付けていた。
「おおう、どうし…」
「郁なんて全然かっこよくないです羨ましい」
「別に羨ましいとかじゃねえけどなんかムカつく」
「…はぁ」
 少々変な空気になり、シーンとした空間の中に、可愛らしくて小さな声が響いた。
「あのー…」
「あ、八重きたー」
「八重ちゃん、いらっしゃい」
 いそいそと扉を閉め、あわあわと此方にやってくる八重ちゃんはめちゃくちゃかわいい。お父さん嫁にやりたくないよ、と変なことを考える。
「全員集まったなー」
「そうっすね」
「いつものメンバーです!」
「じゃあ、発声からやるぞー。郁、頼む」
 メンバー五人の合唱部、伴奏に指揮者、ソプラノにアルト、バスが各々1名のみ。音を外したらすぐバレる。それでも彼らは今日も拙い伴奏と共に歌う。この歌は誰かに届いているのだろうか。

「さあ かたりあおう すばらしいぼくらの ゆめのせかいを」

♯♭♪

おわり

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