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じりじりと、肌が焼けるような暑い夏の日だった。蝉たちが、短い間に必死に命を繋ごうと鳴いていた。
その声を聴きながら、俺は友達の家へ向かっていた。
歩いても走っても、すぐに着く距離。それでも、いつも走ってしまうのは早くあいつに会いたいから。
しかし、着いたときに見たあいつは、今日の約束を楽しみに待っていたような顔ではなく、地面にしゃがみ込んで泣いていたんだ。

「あ…よ、くっ…うっううっ…」
「…どうしたんだよ」
「あ、の…せみ、がっ…ひくっ…」
「せみ…?」

今日は虫取りへ行く約束だった。湊も楽しみにしていたはずだ。俺も網を持ってここまで走ってきたんだ。…それが関係しているのか?

湊が泣き止むのを、暫く待っていた。軽く背中をさすってやり、少し落ち着いてきたとき、彼は顔を上げた。しかし、直ぐにまた悲しそうな表情で地面を見つめた。俺は彼と同じ様に目線を下に落とす。すると、そこには透明のしわくちゃな羽をもつ――きっと殻を出たばかりなのだろう――小さな蝉がいた。




 *****
「…動かない、か?」
「だ、大分、弱ってると思う…。さっき、ね…陽くんを待ってたとき、庭にねこがきて…。可愛いなあって近付いたら、何だかペシペシしてたんだ。何だろうって見てみた、ら…」
「こいつだったのか…」

俺は、小さな生き物に触れてみた。キシキシ、と少しだけ動く手足。ついさっき外の世界を知った、数年間ずっと地中でこの時を待っていただろう小さな虫。どんな世界を思い描いたのだろう。俺たちにとっては、とても小さな世界、僅かな時間。そんなことを考えながら見つめていると、グッと目の奥が熱くなるのを感じた。

「…辛いな」
「…僕が、もっ、と早く気付けばっ…」

また泣き出しそうなのを宥める。彼のせいではないのだ。あの猫のせいにするつもりもない。これがこいつの一生で、今が終わりのとき。ただ、それだけ。

「…虫取り、やめるか」

湊は、コク…と頷いた。そうして彼は、スッと立ち上がり俺の服を引っ張った。俺は、最後にそっと蝉の頭を撫で、手を離した。

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