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小さくて、泣き虫で幼い彼奴はもう居なかった。

「親父」
「ん、どうしたー」
秋だった。段々暑さが消えていき、鈴虫が鳴き始める秋だった。
"いつも通り"とは違う一日を過ごし、帰宅したところで親父に話しかけた。
「涼しくなったな」
そう言った親父は縁側に俺を招き、二人で座りかけた。

暑かった夏が過ぎ、俺の好きな向日葵の花も枯れた。秋は秋桜が咲くんだ。とても可愛い花だけど、小さな太陽に少し未練があって、庭から目を離した。
「向日葵、枯れた」
「あぁ‥元気に育って、精一杯生きたさ」
親父は庭を見つめてた。目を細めて、花たちを見ていた。俺は、下を向いて言った。
「近所に、転校生が来た」
「あ~この間引っ越してきた子ね」
「ん、家、近い」
少しずつ、話した。まだ頭の中で纏まっていない。けれど、吐き出さないと潰れてしまいそうな、重い荷物を抱えている気分だった。
「‥今日、湊が3人で帰ろうって」
小さな声で呟いた。親父は黙って聞いていた。
「‥なんか、よくわかんねぇけど嫌だった。か、ら‥1人で帰ってきた」
―3人なら一緒帰んねぇ。
そう言った後の彼奴の反応は覚えてない。別に転校生が嫌いなわけじゃない。けれど、ぼんやりと心が曇っていったんだ。
「そうかぁ」
親父はそう言って、俺の頭を撫でた。くしゃくしゃ、とするのではなく、上から下へ整えるように。
「難しいよなぁ。もやもや、ちりちり、ぎゅうって」
「ぎゅう?」
「うん、心臓が締め付けられるような」
へぇ。適当に相槌をうった。心臓、ぎゅうってするんだ。本当に締め付けられたわけじゃないのに。
「ぎゅうって、痛い?」
「痛いよ、凄く苦しくて、僕も泣いちゃうくらい」
そんなに痛いのか、と少し怖くなった。

「んー陽くんは、どうするの」
どうしたいの、じゃなかったから返答に困った。どうするんだろう、俺。
「‥湊と帰りたい。でも、3人は嫌だから1人で帰る」
3人だったら帰らないとか言っちゃったしな。
「そうかぁ‥そっか」
今度は、くしゃくしゃってした。

庭を見た。
太陽は枯れてしまった。
俺の中でも、何かが枯れた気がした。


(多分、あの日に、糸は切れた)

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