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「あ、」

 また巨峰だ。がさがさ、と飴を掴んだ右手を見て湊は思った。さっきも巨峰だった。こういうとき、ううん、とおもう。嫌いなわけではなくて、なんとなく違う味を楽しみたい。いま、口ん中ブドウ味だし。

「ようー飴いるー?」
「いらねえ」

 隣に声をかけると、顔もあげずにいわれた。素っ気ない、返事早すぎだし。なんか切ないなあ。真面目にカリカリとシャーペンを滑らせる陽を見て、集中してるなーと思った。うん、俺も勉強しねーとな。とか思いつつ、もっかいおみくじにチャレンジ。…あっれー。

「ちょっと下行ってくるわー」
「…」

 適当に告げて、席をたつ。おみくじはまた末吉だった。口の中は変わらずブドウ。湊は先ほどの飴を持ち、次は左手で挑戦する。右手には紫の飴玉、左手は…お楽しみという状態で、開きっぱなしの扉を抜け、階段を降りた。まだいるかなー。


「おっいた。紅ちゃーん」

 廊下を走って近付くと、走っちゃ駄目ですよ、といわれた。んー、と笑ってお茶を濁しながら両手を突きだす。

「どっちの手ーにあーるーかっ」
「え?」

 まぁ、両方にあるんだけどーとか思いつつ、選択を待つ。んー…、と悩んだ末選んだのは、右手だった。あ、今更だけど俺の手で溶けてたりしねーよな…と少し不安になったが、恐らく大丈夫だろうとパッと彼女の前で右手を開いた。

「あったり!飴どーぞ」
「わ、ありがとうございます」

 にこり、と笑いかけられる。うん、かわいいなー。陽ももうちょい愛想というものがあればな…とおもう。こちらも笑い返して、そういえば、と彼女に尋ねた。

「芳ちゃんは?」
「今日は日直みたいで、遅れるみたいです。でも、もうすぐ来ると思いますよ」
「そっかー」

 部室で待ちますか?と聞かれたけれど、ふるふると首を振る。そんな大した用じゃねえしなぁ。

「紅ちゃんって何味がすき?」
「えっと、巨峰、すきですよ。あと、桃もすきです」
「俺もすきだわー」

 先程は、ブドウばっかだーなんて思っていたけれど。桃食べたいな、なんて思いながら、左手をポケットにいれた。これは、何味だろ。そうして、暫く二人で話していると、彼がきた。

「何してるんですか先輩?」
「おつかれー」
「芳くん、お疲れ様」

 少し緊張して、早歩きな様子だった彼は、こちらへ来るとすっと肩を降ろした。湊はポケットから飴を取りだし、彼に渡す。

「何味だと思う?」
「何味があるんですか?」
「ひみつー」
「ブドウで」

 ちゃんと聞いたわりには早い決断だ。大したことではないけれど、彼は何かに気づいてそう言ったのかもしれない。若しくは、ただ単に運任せ。

 手を開けば、紫色。なんてことだ。今日はブドウの日なのか。なんだか笑ってしまった。そして彼は、すんなり当てたそれを口にいれた。

「ブドウ、すきですよ。ありがとうございます」
「おー…」

 ならばそれも、当たりだなと思った。




オチない

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『今日、満月なんだってー』

 何処からか聞こえた声につられて夜空を見上げた。すると、ちらちらと光る星たちに囲まれたまるい月が浮かんでいた。幻想的な光が、暗闇を穏やかに照らす。
「わあー…綺麗だね。」
「満月の日は良くないことが起こるって聞いたことある?」
「交通事故だっけ。」
「そうそう、何だか不思議だよねー。月に見とれて事故ったとかかな?」
「それはないだろー。」
 通行人の会話を耳に入れつつ、寒さから逃げるように只管家路を急いだ。

「…ただいま」
「おかえりー寒かっただろー」
 エプロン姿の父がひょっこり顔を出す。軽く返事をして、靴を脱いだ。
「陽くーん。今日は牛丼だよー」
父の声をぼんやりと聞きながら、自室に入る。目を窓へ向けるが、月は見えない。
「陽くん?」
「行く」
なかなか来ないことに焦れたのか、再び陽を呼ぶ声に、短くそう言った。

「今日は満月らしいね~」
「…」
「見た?」
「少し」
「なんかさ、不思議な感じだよね」
 先程と同じようなことを聞きながら、夕飯を口に運ぶ。満月の話題はまだ続くのかと思いきや、次には舌を噛みきるという何処から引っ張り出してきたのかよくわからない話へと変わっていた。

 夕飯を終えて、まだ話し足りなそうな父親を置いて自室へと戻ると、ベッドに腰掛ける。向日葵が下を向いて、太陽が沈む。満月が後ろから追いかけて、ぼんやりとした光を残しながら雲に隠れる。
 もうすぐ秋桜が咲く。十五夜というものも、そろそろだろうか。詳しくは知らないが、一月に満月の日が二度あるのは、一日と三十一日のみだという。へえ、と適当に相槌を打ちながら、少しだけ眉間に皺が寄ったその時、考えていたことは何だったろうか。
 ばたり、と後ろに沈む。疲労を感じた。暗闇の中、月の光が差し込むだなんて、馬鹿げた話だと思ったものだが、窓辺は少し明るい。重たい体を起こし、軽くカーテンを開けた。
 満月が見える。昔、月は自分を追いかけてくるように感じていた。何度振り向いてもそこにいる、白い光。太陽とは異なる、薄暗い寒さを感じた。乱暴にカーテンを閉めて、振り向く。そこに月は居なかった。

 ガシガシと髪を拭きながら自室へ戻ると、薄暗かった。電気を付けて、椅子に座る。ノートを開こうとして、やめた。振り向く、夜がちらつく。立ち上がり布で隠す。ベッドに潜り込み、一人だけの暗闇を作った。
 ぐるぐるとまわる。満月、事故、「不思議だね。」、綺麗、あれの何処が、綺麗なのだろう。近付いてくる、眠れない、いま何分経っただろう。何時なんだ。朝は、まただろうか。
 まるで永遠に続くような気がして、けれどそれを打ち切るため、顔を出すことには恐怖を感じる。暗闇に慣れた目を、閉じた。


 ピチピチという鳥の声、ジリジリと響く蝉の音に目を開ける。眠っていたような、そうでないような、不思議な感覚。顔を出して、朝を確認した。心地よくない汗に顔をしかめ、立ち上がった。
 カーテンを開ける。眩しい光に目を細める。安心感、視界に銀がちらついた。ジリジリ、カラン。月はもう、居なかった。


おわり。

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 果たしてこの選択は正解だったのだろうか。形無しの物体を見つめて、彼は立ち上がった。

 嘗て親しい友人がいた。互いに自分が一番の理解者であると自負し、好みや性格、何だってわからないものはなかった。例えばここに、嘗ての彼と類似した人間が二人、現れたとする。そう、一瞬で見抜けるはずなのだ。しかし、暑さにやられたのか、脳が水飴のように溶けてしまったようだ。どうやらこれが、現実らしいことに漸く気づいた。
「どうしてわからない?」
「どうしてだろうな」
「忘れてしまった?」
「いや、大事な思い出だ」
「悲しいな」
「…俺もだよ」
 暑い。この猛暑の中どうして彼は帰ってきたのか。本来なら縁側で寛ぎ猫を撫でているところだろうに。妹に西瓜でも切らせて、早く涼みたい。こんな現実など望んでいない、これは昔の話だ。遠い昔の話だろうに、今更何を話そうと言うのだ。
「…かさね」
「なあに?」
「お前はどちらだと思う」
「さあ、わからないわ。私は、葛粉を水で溶かしたこともないのだから」
 そう、この場を茶化すように言った彼女は、眉をしかめた兄を見て、トントンと軽い音を立て台所へ向かった。葛粉は葛(つづら)のことを指すのだろう。私は、彼に触れたこともないのよ、と。
「かさねちゃん、大きくなったな」
 ふと、左の彼――葛かもしれない人物――が言った。彼は、かさねのことを覚えているらしい。
「昔は可愛いもんだったがな、今では意地悪くなったものだ」
「そうか。まぁ、それもいいと思うがな」
 笑みを浮かべ彼は言う、此方が本当の葛なのか。かさねを知っていることは、重要だ。何故なら、かさねとの面識がある。いつかの、小さくて可愛らしい妹を思い浮かべた。そこで、ふと気がついた。あまりにも似ているものだから、判別がつかないのは仕方がないのではないか。過去の姿は記憶にあるが、現在の彼と会うのは初めてなのだ。言ってしまえば、初対面のようなものである。初めての人間を、過去と照らし合わせて見つけるのは不可能…いや、難しいものだ。そう、内心で言い訳をした。
「葛…ラムネを」
「ラムネ?」
「そう…ラムネを持ってきてくれないか」
 シン…とした中で、言葉を発するのは何とも嫌な心地がする。喉が渇く。葛、お前も知っているんだろう。互いに、相手のことは隅々まで、何だって話したのだから。
「用意しよう」
「了解、持ってくるな」
 それぞれが立ち上がる。それに続き、だらしなく放っていた足を動かし立ち上がった。これは賭けだった。
「わかるよな?」
「ああ、わかるさ」
 友情は、いつまで試されるものなんだろうかと、温いため息を呑み込んだ。

***

おわり

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「「先輩何か悩み事ですか!?」」

 部室にちらほらと部員が集まり始めたころ、窓際でふう、と溜め息を吐いた湊に加藤と尾藤が詰め寄った。いきなりの奇襲に驚いた湊は、一瞬躊躇ったあと軽い調子で笑った。
「いいやー何もねえよ。心配かけて悪いな」
「そんなことないです!何かあったらいつでも私に言ってください!」
「いやこいつより先に俺に!」
「黙れチビ!」
「お前が黙れや!」
 わいわい、がやがやと騒ぎはじめる二人に自然と笑みがこぼれる。喧嘩するほど仲が良いというやつだろう。集まり始めたと言っても、部員数は部として認可されるギリギリ七人。合唱部としては何とも寂しいものだ。しかし、新しく入った一年生が部室をとても賑やかにしてくれる。以前聞いた話では、幼馴染みらしく、この通りな関係を続けてきたらしい。二人は互いに十分言い合うと、次の矛先をもう一人の幼馴染みに向けた。
「はー。あんたはさっきから何やってんのよ」
「…」
「無視か!」
「…うるさいよ」
「お前が静かすぎる気もするけどな」
 加藤たちの後ろで真面目に楽譜を読んでいた無藤は、ピアノの前に座っていた。次に歌う合唱曲のものだろう。無藤は伴奏を担当している。合唱部に入ったはいいものの、なかなか歌う様子がなかったため(これには、入部は何かの間違いかと疑った)、ピアノをひかせてみたのだ。どうやら此方には興味が惹かれたようで、拙いながらも一応ピアノ経験者の加藤に教えてもらいつつひいている。まだまだ片手ずつが精一杯のようだが、熱心に取り組む姿勢は、懸命さが伝わってくる。
「楽譜見てたのか、偉いな」
「まだ、上手くひけないんで…」
「ひけてるって、郁。今日もイケメンだなー」
 つい髪をくしゃくしゃにしてしまう。そして、ゆっくり撫で付けて後ろを振り向くと、子犬たちがキッとこちらを睨み付けていた。
「おおう、どうし…」
「郁なんて全然かっこよくないです羨ましい」
「別に羨ましいとかじゃねえけどなんかムカつく」
「…はぁ」
 少々変な空気になり、シーンとした空間の中に、可愛らしくて小さな声が響いた。
「あのー…」
「あ、八重きたー」
「八重ちゃん、いらっしゃい」
 いそいそと扉を閉め、あわあわと此方にやってくる八重ちゃんはめちゃくちゃかわいい。お父さん嫁にやりたくないよ、と変なことを考える。
「全員集まったなー」
「そうっすね」
「いつものメンバーです!」
「じゃあ、発声からやるぞー。郁、頼む」
 メンバー五人の合唱部、伴奏に指揮者、ソプラノにアルト、バスが各々1名のみ。音を外したらすぐバレる。それでも彼らは今日も拙い伴奏と共に歌う。この歌は誰かに届いているのだろうか。

「さあ かたりあおう すばらしいぼくらの ゆめのせかいを」

♯♭♪

おわり

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 日照りの中を歩く金色を見つけて、待ちわびた彼は口の端を上げた。暑苦しい夏の太陽は、容赦なくじりじりと奴を焼いているが、汗を拭う仕草もない。ただ同じリズムで歩くあいつが彼の下を通りすぎたとき、勢いよく木から飛び降りた。ふわりと白いパーカーが浮かび上がり、銀色の髪が揺れる。トン、と軽く着地をして顔を上げた。この瞬間が、彼らと彼女のはじまりであった。

 背後のばさりという音に反応した男は、後ろを振り返った。すると、白と銀色が上から落ちてきて、そのままストン、と着地をした。そうしてゆっくりと顔を上げると、目線が合う。中性的な顔立ちの彼がにこりと笑いかけた。
「初めまして。日比野先輩」
 ちょこんと首を傾けて、彼は言った。その言葉に、日比野陽(ひびの・よう)は少し訝しげな顔をした。初めて会ったにも関わらず、名前を呼ばれるのはあまりいい心持ちがしない。段々と近付いた彼は、日比野の手をすっととって言った。
「僕と一緒に、花を育てませんか?」
 夏の日差しが気温を上げ、蝉がジージーと鳴いていた。


 暫しの沈黙と、するりと離された手を見ながら、夏見芳(なつみ・ほう)は大きく溜め息を吐いた。日陰とはいえ、暑い中ずっと待っていた相手に、漸く会えたと喜んだのも束の間、あっさり振られてしまった。
「…堂々と遅刻してきたくせに」
 本来なら長い間待つ必要などなく、すぐに見つかるはずだったのだが、今日に限って遅刻してきた日比野に悪態をついた。彼はオレンジがかった金色の髪をしていて、登校時間に上から見下ろせば一目でわかる。緩い校則で染髪している者は多々いるが、金髪は校内に数名程度だ。もっとも夏見のような銀髪のほうが珍しいだろうが。
「お前、なにぶすっとしてんの?」
「…縞」
 夏見に声を掛けた少し長い黒髪を結んだ都築縞(つづき・しま)は、頬を膨らませ、机に伏せる彼の正面にしゃがんだ。夏見は、むっとした顔をさらに腕に埋め、目線を左に逸らした。
「別に何でもねえし」
「姉貴?」
「…紅姉は関係ない」
 そう言って、顔を伏せた彼に縞はふう、と溜め息をついた。そして、こいつが変なとき、大抵は姉貴関連だ、と苦笑いをし、くしゃりと銀髪を撫でた。はね除けられることもなく、大人しい。
「まぁ、なんかあったら言えよ」
「…ん」
「ちゃんと寝てるか?」
「いまからねる」
 ぼそぼそと呟いた彼の頭を、よしよしと飽きずに撫でる。ゆったりと梳いていると、すうすうと寝息が聞こえてきた。そっと手を離した縞は立ち上がり、今日も暑いなぁ、と呟いた。


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訳わからなくなってきたしとめます
名前のふらふら具合…
三人称?よくわかんなくなっちゃうなぁ。
陽芳ってか、縞くんがでしゃばったラスト


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 彼は空が好きだと言った。あの蒼に溶けてしまいたいほどに好きなんだ、と馬鹿みたいなことを口にしていた気がする。どうやって溶けんだよと尋ねると、空色の鳥になって飛ぶんだ。なんて笑いながら答えたんだ。

「東(あずま)ー。南来てんよー」
「あーいま行くっつっといて」
 暑かったり寒かったり、よくわからない天気に振り回される近頃。角が少しずつ捲れてきた日誌の天気欄に『晴れ』とお世辞でも綺麗とは言えない字で書きなぐった。そうしてせっせと欄を埋めていくと、ふっと手元に影ができた。
「あずくんー遅い」
「わりい。もうちょい待って」
顔を上げるとムッとした南がいて、悪いなと思いつつ何を書こうかと思考を巡らせた。しかし、ぐるぐる考えても手を止めてしまう。本当に勘弁してほしい、英語は。
「担任が英語担当だからって日誌も英語って面倒くさそう」
「だよな…」
普段ならば、日直二人で日本語と英語担当に別れて書くのだが、もう一人のやつが帰ってしまったため一人で書くことになってしまった。日本語だけならまだしも、これを英語にするのも自分だと思うとどうにも悩んでしまう。
「あ。あずくん、晴れじゃなくてサニーだよ。」
「あ、まじだ」
「テンパってんね」
「んー…もうわかんねえ。英語めんどくせえ」
つーかなんであいつ帰ったんだよ!なんてどうしようもないことを考える。今日は南と家で新作ゲームをする約束だった。有名なRPG、ずっと前から楽しみにしていたのに。
「…手伝ったげよっか?」
「まじで」
「まじよ」
「英語?」
「いや日本語」
「んでだよ」
「あずくん英語頑張らないとやばいじゃん」
それには何も言えなくなる。仕方なしに、南に日本語文を頼むことにした。
「んーなになに。"今日はテストがありました"…なにこれ普通すぎー」
「普通でいんだよ」
「えー。先ずは、"今日は雲ひとつない空でした"でしょ」
「いやそれお前だけだろ」
「そんなことないよー。はい、書き直しね」ちっと思いながらも、消しゴムをかける。大体それさっきより英語にするの大変になってないか、とも思った。
「だっていっぱい書かないと行埋まらないしねー」
まあ、尤もだとも思った。

「終わったーうっしゃ!」
「わーいゲームー」
 『Today,sky was not cloud...』こんな書き出しで始まった文がようやく終わると、二人して嬉しさを声で表した。英語があってるのかあってないのかはよくわからないけれど、ちまちま電子辞書で調べて完成させたそれに、ちょっとした達成感を感じた。
「俺職員室行くから、先玄関行っとけ」
「りょうかーい」
二人でガタガタと机と椅子を鳴らしたあと、教室を出た。空はほんのり橙色がかっていた。

 気が付くと上を向いている彼奴は、もしかしたら空の住人だったりするんだろうか。何処かの姫君のように、帰るときが来るのだろうか。そんな馬鹿なことを考えながら、また今日も夕闇に溶けていく。

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もう書くのめんどくなってブチっちゃった。
最初シアンって言葉が浮かんで、飛び立つまではいいかなと思ったんだけど、姫君は何となくでつけた。あんま気に入ってない感じ。
内容は、空…ってことで、あの、前の二人を連れ戻して来たんですが…。どうやって呼んでたかも曖昧で覚えてなくて何となくで書きました。
空飛ぶ二人でしたね。結局書いてないけど、この後食べりゃいいんじゃあないかな。
最後の締めはなんかかぐや姫が浮かんで、偶然はまっただけ。題名の姫君にも当てはまったし。とても偶然でした。

おわり!

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 休日明けの月曜日、日中に比べ気温はそう高くなく、半袖だと少し肌寒い。そんな朝、ノロノロと目を擦りながら学校へ向かっていたパーカーの少年は、大きな欠伸をした。それを少年は、手で隠すことなく、ただ眠い眠いと頭の中で繰り返していた。

 毎朝4時に起き、新聞をポストに入れる。いくら慣れたことであっても睡眠時間が削られることには変わりはない。昨夜は課題に詰まり、遅くまで教科書と睨めっこしていたのもこの睡魔の原因だ。
(サボりたい……)
遅刻しそうだ、いやまだ大丈夫なのだろうか。じとーっとした目――開いているのか開いていないのかよくわからない――で、曖昧な脳をぐらりぐらりと揺らしながら気持ち歩調を速めた。何だかぼんやりしてきた気がする。熊はパンダだろうか。課題は終わったよな、いや終わってなかったか?キリンが舞う。舞う?どんな風に…
「おいっ!」
急に腕を掴まれ覚醒する。脳が目を開かせ、目の前の電柱を視界に捉えた。
「あ、ぶね…」
ぶつかりそうだった。先程は何を考えていたのだろう、思い出せない。兎に角ぐらぐらしていた。目は、なかなか開かなかった気がする。また睡魔に引き摺られて、ぼけーっとしていたら前に引っ張られた。
「っわ!」
「行くぞ」
遅刻すんだろ。と言った陽は、こんなギリギリに登校していただろうか。そんなことをふと考えたけれど、大したことじゃないとすぐに思考を止めた。とりあえず眠い、とっても眠い。まだ寝ていたいんだ。本当は少し、休みたい。でも、学校行かないと紅姉に会えないし。陽にも構ってやれないしな…。そこまで考えて、思考が途切れた。

***

「あ、起きた」
物音に目を覚まし、ゆっくり目を開けるとそんな声が聞こえた。声の方を向くと、黒い髪がぼんやり見えた。
「もうちょい寝る?」
「いや、起きる…。いま何時」
もう一度顔を伏せて尋ねる。まだ眠気は残っていたが、これ以上授業中に寝るわけにはいかない。
「10時半、2限終わったとこ。お前ふらふらだったけど意識ちゃんとあったか?」
「…あー、ねえわ。陽と会ったのは覚えてる」
そう答えると、縞は「あぁ、先輩がここまで連れてきた」と言った。
「…あいつ俺のクラス知ってたっけ?」
「さぁー。」
「…。」
「あ、次移動だぞ」
少し疑問を持ちながらも、眠気を払いのけ促されるまま立ち上がった。

***

 結局身の入らないまま授業を終え、SHRが終わったあともぼうっと窓の外を見つめていると、明るい髪色が見えた。学校の校則が緩いため、染髪している生徒は多い。けれど、何となくそれが誰だか直ぐに分かった。
(今日の水やり当番…)
―ガタンッ
慌てて立ち上がり、椅子が倒れる。それを気にすることなく鞄を引っ掴んで教室を出た。

「はぁ、はぁっ…」
「…お前」
花壇に着くと、少し驚いたような顔をされた。どれくらいぼうっとしていたか分からないけれど、自分の仕事を他人任せにするなんでしたくない。今日の当番は、俺だ。
「起きたのか」
「…いつの話だっつの」
疾っくに起きてるにきまってる。体調管理ができていないのが何だか恥ずかしくて、その不注意で助けてもらったのも情けなくて、きゅっと口を結んだ。
「今朝は、ありがと」
「いや…」
お前も、結構危なっかしいな。と続く――その言葉が少し引っ掛かった。目線が地面に、顔も気持ち下がる。
「水やり、あと俺やるから」
「…ああ」
如雨露を受けとろうと、片手を伸ばす。それを掴むと、思ったより水が入っているのか重かった。
「…っ」
こいつなんでこんな重いもの片手で持てるんだ。そんなことを思い目を向けると、ぱちっと目が合った。そうしてまた、ひょいと持ち上げられる。
「…途中まで、俺がやる」
何となく、それに従った。

 丁寧に水をかけ、地面の色を変えていく。それを、横にしゃがんでじっと見ていた。正直に言うと、俺の水やりなんて、何となくで適当だ。特に花が好きな訳じゃないし、四葉だって、見つかりにくいだけで結局は雑草だと思う。だから、水やりなんてしたことなかったし、こんな風にやるんだとか、知らない。どこまでがやりすぎだとか、分からない。
「お前さ」
珍しく陽が話しかけてくる。ふいっと顔をあげたけれど、今度は目が合うことはなかった。
「…携帯持ってないよな」
「へ」
考えていたことと全然違ったため、変な声が出た。慌てて答えを言う。
「あぁ、持ってない持ってない」
「…」
「なに、意外?」
大抵のやつは、高校へ入ったら買ってもらうものだろう。今じゃ小学生だって持っていることもある。まあでも、大抵のやつは、だ。
「…いや、俺も持ってない」
「へえー…。まあ、確かに持ってたら違和感あるけど」
こいつが携帯カチカチやってるの見たら笑いそう、似合わなすぎて。初めて会ったときはそうでもなかったけれど、今じゃこんなに機械が似合わないやつはいないって感じだ。そんなことを思っていると、スッと陽が立ち上がった。
「いらねえの?」
それは、携帯のことだろうか。偶に、陽は言葉が足りない。
「…どっちでもいい」
紅姉に、『おはよう』ってメールを打ったり、出掛けていても、声が聞けたり。長ったらしい番号を覚えなくてよくて…まぁ、紅姉の番号は余裕で暗記してるけど。
「あったら便利かなーとは思うよ」
ぼんやりと空を見ながら言った。結局陽は別の花壇にも水をやりはじめた。何だかんだ、やりたくてやってるに違いない。こいつの一番は、分かりやすい。
「…じゃあ、買えば」
しゃがんだ背中を見ていると、また驚くようなことを言った。何でこんな話を始めたのかもよくわからなかった。
「なんでだよ」
なんでだろう。暑いのに汗もかいてなさそうな背中に問いかけた。
「どっかで野垂れ死んでそう」
「はあっ?」
「今朝みたいに」
「…」
じゃあ、なんだ。俺が倒れたときに携帯で助けを求めろと言うことか。
「なんだそれ…ふはっ…」
陽の考えてることは、分からなくて面白い。感情と思考が読める会話ほど詰まらないものはない。何だかおかしくて、笑った。

 きらきらと、水が落ちる。その中に小さな虹が見えた気がした。陽は何も言わない。
「じゃあさ」
笑いも落ち着いたところで、切り出した。
「陽も買おうよ」
ぱしゃんと小さな音が聞こえた。陽はゆっくり、こちらを向いた。
「…買うのか」
「うん」
どっちでもいいけど、あって困ることはない。紅姉に『帰ろう』ってメールして、縞には『あんぱん』って打ってパシるだろ。で、偶に、たまあにだけれど、陽に『眠たい』って電柱から守ってもらおう。
 あと、なんとなく、あれも使ってしまおう。貯金はあるから、手を出したことのないあれを。いつもなら絶対に考えつかないことを、ついまぁいいやにしてしまう。
なんだか不思議な心地だ。
「今週の日曜、見に行こ」
勝手に予定を決めてしまう。でも、陽が言い出したんだから、しようがない。
「何色がいいかなぁ」
地面に散らばる色を見ながら言った。陽はやはり何も言わなかったけれど、同じように花を見ていた。きっと、おんなじことを考えてるような気がした。

***おまけ

「そういえば、陽って俺のクラス知ってたんだね」
ふと思い出して聞いてみた。水やりを終え(結局陽が全部やった)、如雨露を倉庫に仕舞いに隣を歩く。
「…木月に聞いた」
「えっ」
知っていたものだと決めつけていたものだから驚いてしまった。なんだか、拍子抜けだ。
「…っと、じゃあ紅姉にバレてるのか」
今日は確か委員会で一緒に帰れないし、一度も会ってない。明日は怒られるかもしれない。
「てか、俺今日一回も会ってないのにずるい」
「…知るか」
コトンと如雨露を置く。んな可愛く置いたって許さねー。
「あと、俺は陽のクラス知ってる」
「あいつと一緒だからな」
「まあね」
んじゃあ、毎日ずるいってことだ。そういえば、初めは結構威嚇していた気もする。今じゃ、無害そのものだけれど。
「んー」
「…」
「日曜、晴れるかな」
さっきの、ちゃんと覚えているんだろうか。何だかんだ返事はほしいものだ。
「…晴れるはず」
「へえ。じゃあ…」
答えてくれたのが嬉しくて、すらすらと言葉が出てくる。待ち合わせ場所だとか、時間だとか。鞄を掴んで、校門へ向かうときも相変わらずの無口だったけど。
 偶にはこういうのもいいなあ、なんて思った。そんな帰り道。

***
やっと終わった。や、やっと。
1ヶ月かかった。軽い気持ちで始めたのに。
陽芳、携帯。そんなのを浮かべたのに、タイトルあってねえ。
寧ろ携帯への繋げ方無理矢理ぃ。
最初から流れとか考えてないぃ。
つか芳が倒れた時点でちょう困った。
ナチュラル縞くん。
湊いないね。
確か眠い月曜日の帰りに書き始めた?先月の
芳最後デレッとしすぎじゃね。
毎日書いてる人変わるから…芳変…です…。

そろそろセルフなんとか終わる
自己弁護

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『おはよう。飯ちゃんと食ってるか?』

俺は今日カレーなんだけど…三日目の。と続く文面。それを見て僕は、バッと布団を飛び出して階段を降りた。
「お、おおお母さん!」
「あら、おはようゆんちゃん。今日は早いわねぇ」
「おはよ。あのね、今日の夕飯って確か…」
「ああ、カレーが作ってあるわ。お母さん帰り遅くなるから、温めて食べてね」
それを聞いて、とても嬉しそうな表情をする息子。母親は不思議そうに裕太を見ながら首を傾けた。
「ゆんちゃんカレーそんなにすきだったかしら…?」
ポツリと呟いた母親に、今大好きになったんだ!と心の中で返し、裕太は支度を始めた。

「ゆーんー!」
「天ちゃんおはよ!」
「おう、はよー。なんか機嫌いいな」
「ふふー今日カレーなんだ」
「カレー?お前すきだったっけ」
「んーうん」
「なんか適当だな」
そう言って天里は呆れたように笑った。
 学校へ来て、天里とちょっとしたことを話すのが日課だ。会話は一方が話してるだけではなく、互いに話して、聞いてというものだと思う。僕は…その、人見知りが激しくて、天里くんくらいしか話せる子がいない。だから天里くんとクラスが同じと知ったとき、とってもとっても嬉しかった。前、すごく寂しかったときがあったから…。

 アキさんとメールをし始めたのはその頃だった。あの日、ぼんやりと窓を眺めていたら、天里くんがやってきて少し話をした。心配されてるの、情けないなぁ。なんて思っていた気がする。暫くすると予鈴が鳴って、教室へ帰る彼を見送った。僕はまた、ぼんやりと授業が始まるのを待った。
 筆箱に手を入れると、カサリと何かに手があたった。何だろう、と目前へ持ってくると折り畳まれた紙の切れ端。
(こんなの入れたっけ…?)
不思議に思いつつ、紙を開いた。すると、英語に数字、記号の文字列――所謂めーるあどれすというものが書かれていた。そして右下に、"アキ"とも。
(え…?)
よく分からないものが自分の筆箱に入っていて、僕は混乱した。これは、僕の筆箱。こっちは、見知らぬ紙…。そうしてハテナマークを浮かべる僕に、「萩原!」という声。
バッと顔を挙げると先生とクラス中の視線。
「28ページ、音読な。」
それを聞いて慌てて立ち上がり、顔を真っ赤にしながら読み始めた。

 天里くんと話しながら帰って、自分の部屋のベッドでゴロゴロする。昼に見つけた紙をじーっと見つめていた。
「アキって誰だろう…」
帰り道、天里くんに相談した。
『僕の筆箱にさ、紙が入ってて…』
『へぇ』
『メールアドレスが書かれてたんだよ』
『メアド?』
『うん』
『…あれか、文通しましょーみたいな。そんな感じじゃね』
『誰かもわかんない人と?』
『まぁ今じゃ結構そんなもんだろ。顔知らない奴とメールなんて』
『天ちゃんもしてるの?』
『まぁ、な…』
最後の答えが少し気になったけれど、皆は知らない人とメールをしているらしい。僕はしたことがないし、全然知らなかった。…友達、いないからかな。
『まあとりあえずメールしてみたら?』
『えーこわいよ…』
『大丈夫だって』
『間違えて入ってたのかもしれな…』
『してみなきゃわかんねーじゃん』
『でも、さー…』
『あーもう、ぐだぐだ言うなよ。してみろっつの』
天里くんは、メールしたらまた教えてくれ。と、僕にそれを送るよう促していた。結構投げ遣りで冷たい…。

 ぼけーっと紙を見る。ゆっくりと起き上がって携帯を持った。そのまま、ばたんと布団に沈む。
(x…y…)
ポチポチ、紙を見ながら打っていく。不思議な感覚がした。知らない人とメールって、どんな感じだろう。アドレス帳の中身は、200人登録できる!なんて多すぎだ、と思うくらいにはすかすかで。女の人は母親だけ…うわーなんか僕って…とか余計なことも考えてしまった。
「んー…」
アドレスを打ち終わり、何て送ろうかと文面を考える。
(そもそも、アキさんって誰だ…?)
ポチポチ…ポチ

『アキさんですか?』

「…うーん」
それくらいしか浮かばない。というか、アキさんって人は僕を知っているんだろうか。でも、知らない人に名前を教えるのも憚れる。
(まぁ、いっか…)
こんにちは、と当たり障りのない挨拶だけ付け加え、ドキドキしながら送信をした。

このメールが僕の人生を大きく変化させるとは、まだ思いもしなかった。


『食べてます!僕も今日、カレーなんですよ(^O^)』

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や、やっとでけた。3日目のカレーを食べた日に書き始めたんですよ、たしか。
一週間くらいポチポチやってました。流れぐちゃぐちゃかも?
読み返すのが面倒&恥ずかしいあれです。
天里くん伏線みたいなの張ってあるぞ…おう

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「なあなあ、あのおばさんが持ってる袋全部バナナかな?」
おれバナナすきなんだよねー!と一人で興奮してる奴を呆れた目で見た。
「どうでもいー…」
「えっなんで!バナナうめーじゃん!渉(しょう)きらいなの?」
「いや」
「じゃあ帰りバナナ買ってこうぜー」
「はっ?ちょ、おい!なんでだよ…」
妙に張り切ってバナナを求める奴は、スーパーこっち!と騒いでいる。何故急にバナナを買いに行くことになったのか。バナナのおばさんを見て舌打ち。そうして万里(ばんり)に付いていった。面倒だと思いつつも付いていくのは心配だからだ。一体いくつだよって童顔に、その容姿通りの子どもっぽい性格。ピーマンは嫌いで肉はすき、未だに歩いてると転ける。…危なっかしくて見ていられない――なんて言葉があるが、おれは見ていないと非常に不安だ。(何を遣らかしてるか分からない)

「あっバナナあった!!」
男二人でバナナを買いにスーパーへ寄り道。無事バナナを見つけた奴はご機嫌のようだった。
「よかったな」
「うん!」
トコトコとレジへ向かう万里に付いてく。かわいい。何だろう、子どもみたいな愛らしさがある。自然と親のような気分になっていると、くるりとこちらを向いた。
「付き合ってくれてありがとー」
にこっと笑いかけられた。あーなんだこいつ、かわいいな。あー…
「貸せ」
「あ」
ひょいとバナナを取り上げた。一房も買って、どんだけ食べんだよって聞いたら「渉と食べるからー三つと半分!」なんて言いやがって…。おれそこまでバナナすきじゃねーよと思いつつも、なんか嬉しかった。
「買ってやるから、万里」
「えっいいの!やった!」
渉良いやつ!なんてにこにこ言われたらな…スーパーでバナナだけ買って行く奇妙なDKでも何でもよくなる。や、少しは気になるが。
まぁ、結局おれは万里甘いんだよな。たぶん、これからもずっと。

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前座ってたおばさんが持ってる袋、全部バナナかなと思って。
名前即席。あほ受けみたいなって最近思った気がして
大してあほでもなんでもねえ
同級生幼なじみってとこか。

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 人生は運命に決められていると誰かが言った。
容姿、性格、身分、環境。変化はすれど、最初から決められたものだ。自分で選んだ訳でもない顔のせいで、醜いと罵倒される奴と、整った顔から好かれ可愛がられる奴。こいつらの違いはなんだ?スタート地点だろう。初めから良い身分の奴と、低い奴では上へ上がるための努力の差…持っているものが違う。
そうだ、俺らは理不尽な箱に産み落とされ、自己の欲を満たすため行動し、考える。そんな世界を見つめて、馬鹿らしくなった。
だから、死んでみた。
平々凡々な人生を羨む奴は、俺のことを罵るかもしれない。けれど、平凡には非凡が妬ましく映るんだ。俺には、こうやってぐだぐだと考えるような理由があったと解ってくれればそれでいい。
 さて、前置きはこれまでにしよう。そうして死んだ先の、今この状況を一言で伝えるならば「変わっていない」だ。
俺は確かに死んだのだ。世界の運命とやらに従ったのだ。しかし俺は俺のまま、持ち合わせているものだって、そのまま。
どういうことなのだろうと鏡を見た。少し幼い顔。これは昨日見た俺じゃなかった。タイムスリップ――そんな言葉が頭を過った。しかし、これではただの若返りなのか?中身は死んだままの俺…?
 少し混乱していた俺は、暫くして階段を上る音を聞いた。コンコン、と鳴るドア。
「ご飯出来たわよー早く起きなさい。お母さんもう出るからねー」
「…。」
母親が、居た。俺は驚愕した。ここで注意しておこう、俺には"母親は居なかった"のだ。それがいるってことは、ここは俺の世界ではない。何処だ此処は、何処なんだ…。
カチャリ
「あら、起きてるじゃない」
"母親"が部屋に入ってきた。
「早く準備して、忙しいんだから」
「…」
俺はじっとそいつを見つめた。
「何、どうしたの。調子悪い?」
そいつは俺の視線に怪訝な顔をした。俺はその顔に、一言。
「アンタ、だれだ」
「…え?」
「俺に母親はいない…」
「…。」
そいつは俺をじっと見返した。そうして、"今の"俺に対して問いかけてきた。
「あなた…死んだ?」
「っ…」
「そうなのね。…そっか」
女はそう言って俺に近づいた。咄嗟に身構えた俺の肩に手を置き、屈む。
「…ごめんなさい。貴方を置いてきぼりにして」
俺の母親は病死だった。昔のことで顔もあまり覚えていない。写真で見た奴はこんな顔だったか。わからない、知らない奴に謝られるのは奇妙で、不気味だった。
「私も死んだわ。ここは"二度目の世界"よ。ふと記憶が飛ばされる。何処へ飛ばされるか分からない。…貴方は、大分大人になったのかしら…でも、それにしてはまだ若い気もするわね」
こいつが何を言っているのかよく解らなかった。二度目の世界…?
「ふふ、最初は混乱するわ。私も吃驚したの。とりあえず、今日は以前のように学校へ行きましょ?」
時間、本当にないのよね。と女は苦笑した。立ち上がり、扉へ向かって一言。
「運命を、どれだけ変えられるか…そんな世界よ」

 運命は変えられない。大本が決まり、選択肢も決まっている。そんな世界が終わると、人は何処へ行くのか知ってるかい?
「また生きるのさ」
変わらないものを持って、何度だって最良を目指す…そんなところか?俺も理解できてないのさ、なんせまだ二度目だから。
これから二度目、三度目…なんて続いたら嫌になるよ。はは、流石に飽きるだろ?世界は何をしたいのか、俺にはわからないね。
さぁて始めますか。もう一度、もう一度…。

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ううん。暇潰しにサブウェイで

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ここは小さな国でした。お父さんが、大切に守っている小さな国。僕はまだ力というものがよく分かっていなかった。ただ、リンネと一緒にいるのが楽しかった。
「りんー」
庭で本を読んでいるリンネに近寄った。春のお昼はぽかぽかで気持ちいい。リンネは此方を向いて、少し笑った。
「ミコトさま、今お起きになったのですか?」
「うん。お昼寝しちゃった」
えへへ、と笑っていると寝癖がついていたのか、頭を撫でられた。そんなことが幸せで、リンネが大好きで、僕はぎゅってリンネに抱きついた。
「りんだいすきー」
「…有難うございます」
ふっとリンネを見上げると、また笑っていた。笑っているんだけど、悲しそうに見える。りんはすきって言ってくれない。いつも、言ってくれない。
「…」
まだ小さな僕だったけれど、ずっとずっと、リンネがすきだった。どんな風に?なんて聞かれたことはないけれど、綺麗で、色んなこと知ってて…なんて皆みたいに単純じゃあないんだ。リンネだけがすき、リンネだからすき。将来王さまになる僕は、国民皆を愛さなきゃいけないのに、こんなのだめかな。リンネ、怒るかな。
「リンネ…」
「、なんですか?」
「ずっと、一緒にいようね」
そう笑って言うと、リンネから離れた。僕も小さな痛みを感じた。リンネが寂しそうだから感じるものなのか、一緒にいられるのだろうか、という不安からなのか。まだ、僕は分からなかった。知らなかったんだ、君のこと…僕のこと。

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きらきら、太陽の光を反射して輝く庭は今日もとても綺麗だ。あの頃と変わらない、変わったのは僕だけなのかもしれない。そんな気がした。
「リンネ、お茶を飲む?」
「いえ、私は…」
「そう?美味しいんだけどなぁ…」
リンネはそっと目を伏せた。変わらない、リンネは今日も綺麗だ。だって僕の4倍、いや、もっともっと生きているんだ。今更この数分の時もちっぽけなものに違いない。
「僕は、いい子だったろうか」
「…?」
「昔さ、リンネに迷惑かけてなかったかな?」
「そんな、とてもお優しくて、可愛らしい方でしたよ」
「ふふ、有難う。よかった」
そう言って、コトンと湯呑みを置いた。優しくしたかったのはリンネだけだよ。でも、なかなか気づいてくれないものだ。お世話係のリンネに迷惑かけたくなかったし。誰にでも優しく、はもう身に染み付いているのだろう。勿論皆好い人ばかりだけれど、リンネは特別だって伝わってほしい。

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まだまだ寒さが残る季節。卒業式に桜、なんてイメージがあるが、実際はまだ咲いていないのが殆どな気がする。特に親しい先輩が卒業する訳でもなく、ただぼんやりと座っているだけでそれは終わった。
入学して一年が経った。長い様でとても短かったような気がする。紅姉といっぱい居れて、なんかちょっとムカつく奴とも知り合って、テンション高い奴に絡まれて、何だかんだで楽しかった。
ふと、ちらちらと散る桜を思い浮かべる。あと一年だ。いや、部活は半年‥
こういう節目に、別れを連想してしまうのは誰にでもあると思う。去年は紅姉に会える、と喜んでいた季節が、今はまた次の別れに悲しくなる。もどかしい、小さな隔たりが。
とぼとぼと歩いていたら、いつの間にか部室の辺りに来ていた。桜‥じゃないや、いま何か咲いていたっけ。
ふらふら、きょろきょろ、としていたら後ろから声をかけられた。
「あんた‥何やってんの」
びくり、少し驚いて振り向くと黄色の先輩がいた。
「っや、別に。陽こそ何」
先輩に対する態度ではない。でも、これでいいらしい。そんな距離になった、この一年で。
陽はトストストス、と此方に歩いてきて蛇口を捻った。ザアーっと如雨露に溜まる水。
「‥」
あー、はい。どう見ても水やりですよねー。答えないのも気にしない。そんな奴、たぶん無駄口叩くのがめんどい。
「いま、何咲いてる?」
先程考えたことを聞いてみた。
「パンジーと菜の花、あと‥」
きゅっと蛇口を閉めた。ぽた、ぽた、と垂れる雫。此方を振り返って、ふっと笑った。
「来いよ」
花の話になると急に態度が変わる。なんだこいつ。何でこんな嬉しそうなの。そう心で呟く自分も、さっきとは違う、晴れた心持ちだった。

トントントン、ついて行く。結構奥の方へ行くんだなぁ、と秋頃のことを思い出した。
一人でふらふらしてるなぁ、と思ったこいつをつけていたら、じぃっと見つめる先に黄色い茸がくっついてたり。なんだっけ、なんかブルーベリーみたいな藍色の実を触って手を汚していたりして。あの時は面白かったなぁと、何でもない自然観察みたいなもんが楽しいって陽が教えてくれたんだよなぁとふふ、なんてらしくもない笑い方をしてしまった。

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なっちゃん小人化しました
カルス+リースの縮小変化で

「ここが、俺らの国!いい処だろ?」
「わあ‥賑やかですね」

「外はさー虫とか、俺らにとっちゃ怪物が沢山いるわけよ。だから、春とかは結構危ないんだよな」
「へぇー。ここは大丈夫なんですか?」
「ああ、ミコト様がいるからな~」
「ミコトさま?」
「おう、この国の王様で、いつも力を使って守ってくれてる」
「えっ。力はそんなに頻繁に使っちゃ寿命がすぐ縮んじゃうんじゃ‥」
「‥そう。だけどさ、そうやってずっと国は守られてきてる。まぁ複雑だけどな、ミコト様にはリンネがいっから」
「リンネ?」
「ん、付き人みたいなもんー。リンネはさ、俺らみたいな力持ってないからすっげー長生きすんだぜ。見た目で誤魔化されるなよ、あれは口うるさい爺だ」
「爺って‥。そっか、力持ってない人もいるんですね」
「いるいる。その代わり彼奴は生まれ変わるらしい」
「え?!」
「輪廻転生~ってか。まぁ子供作ったらそっちに引き継がれるとかで、今のリンネは消えるらしいけど」
「‥何だか複雑なんですね」
「んーまぁ実際生まれ変わってんのかはよく知らん。今何歳なのかも分かんねーし」
「一度会ってみたいですね」
「もっかい言っとく。彼奴は爺だからな!綺麗な顔して俺が生まれた時からあんな顔してたからな!」
(僻んでるなこの人‥)
「あーはいはい。他にはどんな方が居るんですか?」
「力使えない奴?あとはー‥元人間(ボソリ)」
「えっ小人になっちゃったんですか?!」
「あー‥あーだこーだ色々あって、ごにょごにょで最終的にそうなったな」
「凄い適当に説明しましたね」
「んーいや何かもうよくない?会ってみりゃいーよ、彼奴また変な顔して働いてるぜ!」
「へ?ふ、うわっ」
腕捕まれて会いに行ったとサ

確定しとこう(しかしいつでも変更可能な仮)
♂カルス:拡大縮小
♀リース:変化
♀ナツだっけ:人魚
♂名前まだ:元人間
♂ミコト:保護シェルター的な何か
♂リンネ:爺さん(∵)
♂ラーク:他国小人
♂フール:旅人シャボン玉時間停止

男ばっかでした。リンネ女でもいいけどーどーまた考える

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ぽかぽかと暖かい春の海辺で、小さな歌声がふわふわと漂っていた。海と言えば夏だろう、と誰もが思っていそうだが、この小さな男はこの心地良い陽を浴びながらここらを散歩するのが好きだった。
「迷子の迷子の子猫ちゃん~」
そして、歩きながらいつも歌っている。一人、誰に聴いてもらうでもなく好きな歌を自由に歌うのが彼だった。最近流行りのシャカシャカした歌より、ゆったりした、子供達が歌うようなものを好んでいた。
「あなたのお家はどこですか~。ん?」
一メートル程進んだところで、海にぷかぷか浮いている肌色を見つけた。人間は春にも泳ぐんだったか、と少し考えたが今はまだ季節が変わったばかりで、どうにもおかしいとそれをジッと見つめた。
溺れてるとか‥?と言うかあれは完全に意識がなさそう。
そこで彼は考えた。もし可愛い女の子だったら、俺が助けたら王子様じゃん!と。よしそうとなったら早く助けねばと、首に掛かった羽根飾りを手に彼はニッと口角をあげた。

彼は冷たい海をなめていた。ガクガクと震えながら、隣の女の子?を見る。思った通りの可愛い女の子であったのだが、可愛い女の子?であった。なぜなら、足が、ナイ。しかし、ぎゃぁあユーレー!!なんてこともなく、そこにはキラキラと水をはじくウロコが。
そう、所謂人魚だった。そんなおとぎ話あるわけないなんて人間は言いそうだが、彼らはいるのだ。俺たちがいるように。
「ん‥」
ぱちぱち、彼女が目を覚ましたとき、彼は背を向けて電話をしていた。話が終わり、目が合うとニコッと笑う。王子様はスマイルだろ。
「目ぇ覚めた?なんかさー浮かんでたから‥」
救出して王子様しようとしてました、は呑み込んだ。ちょっと童話とか憧れちゃうおれ。
「あ、れ‥え?!ちっちゃいのが喋って‥」
「あっ俺アイトってゆーの。ちっちゃいのは小人なんで」
人魚さんはなんてーのー?とウロコをペタペタ触りながら聞く。本当はお腹とかほっぺたとかぷにぷにしたいなんて願望は流石に控えておく。なぜなら今は王子様だから。(いつもならしてるとかそんなこともないとおも、う!)
「ナツです‥えっと、人魚です」
「なっちゃんかー子猫のなっちゃん~」

ここまで打って寝てた
そして何故5時台‥よく目が覚める‥

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(陽芳がまさかのお付き合いちゅう・湊→陽芳)


「あーうーまじか。‥芳ちゃんのドコが好きなん?」

放課後。暖かい日差し、少し冷たい風。葉が揺れて、花の香りがする春のある日。湊は、その髪色のまんま、藍色だった。
大体は予想していた結果、それでも事実を突き付けられた時のダメージは大きかった。今すぐ泣いてしまいそうで、でもそんな事出来なくて、さり気なく顔を彼から逸らして、尋ねた。
「‥何処って、なんかそういうのはわかんねーんだけど」
そう返した彼をチラリと見たら、どうにも暖かなオーラを纏っている気がして、幸せなんだなというのがジワリと伝わってきた。
(あー俺、俺、こんな陽見たことあったか‥)
いつだって側にいるのは自分だと、そう思っていたのに、現実は既に変化していて、それは只の幻想に。掴んでいたはずの彼の腕は、するすると抜け出して別の場所へ行ってしまった。もう戻って来ない、場所へ。
「なにそれー丸ごと愛しちゃってる感じじゃんー。ひゅー」
少しはやし立ててみると、馬鹿か、と叩かれた。軽く叩かれただけなのに、凄く痛くて、痛くて、頭を抱え込んだ。
「いって、照れてんなよばーか」
「別に照れてねえよ。あと馬鹿はお前だろ‥」
馬鹿馬鹿と言われて、本当の事でも、確かにそうだと認めるのは悔しい。ふと立ち上がって彼の黄色が鈍く光った髪を、ぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「陽も馬鹿になれはいーんじゃー」
「おい湊っ。ばっか止めろまじで」
クスクスと笑う彼に胸がぎゅううと締め付けられて、こんな彼がずっとずっと欲しかったと思った。また名前で呼んでくれたのに、またこんな風に笑うのに、もう自分は特別にはなれない。
黄色に一滴の水が染み込んだ。
「あー畜生!俺も彼女欲しいわー。ちっちゃくて可愛い彼女がほしい。芳ちゃん可愛いしなーちゃっかり面食いかよ馬鹿陽金髪禿げろ」
「‥お前、なんか今日変だな」
髪から手を離して、こっそり頬に手をあてて、ここぞとばかりに陽に中る。少し不自然だったのか、此方に視線と言葉に、変って何だよ、と笑って誤魔化しながら返した。
ぽかぽかのお天道さまは少し傾いて、町を赤色に染めていた。
「そろそろ帰るか」
それに適当に相槌を打ちつつ鞄を持った。

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